事件番号:JP2016-0009
               裁 定
申立人:
  名称:シティグループ・ジャパン・ホールディングス合同会社
  住所:〒100-6520 東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸の内ビルディング
申立人代理人:弁護士 達野大輔
登録者:
  名称:株式会社YAYA-World
   (CITI株式会社を平成27年12月23 日現商号に変更)
  住所:東京都渋谷区東1-32-12プロパティータワー1305
登録者代理人:(1)弁護士 中野頼房
       (2)弁護士 應本昌樹

 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針、
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則及び日本知的財産仲裁センター
JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立
書・答弁書・提出された証拠に基づいて審理を遂げた結果、以下のとおり裁定
する。

1 裁定主文
  ドメイン名「CITI.CO.JP」の登録を申立人に移転せよ。
2 ドメイン名
  紛争に係るドメイン名は「CITI.CO.JP」である。
3 手続の経緯
  別記のとおりである。
4 当事者の主張
 a 申立人
  申立人の主張は概略以下の通りである。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標そ
の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること
 申立人は、シティグループ・インコーポレイテッド(以下シティグループ・
インクと略称する。)の日本における直接の100%子会社として、シティグ
ループ・インクから上記の商標に関して使用許諾を受け、同商標を使用して、
日本におけるグループ一体的な戦略の立案等の業務を行っている会社である。
 申立人の親会社であるシティグループ・インクは、「CITI」及び「citi」のマー
クの商標につき、商標登録第5259973号、第5571223号、第46
38700号、第5057486号を保有しており、この「CITI」及び「citi」
の商標はシティグループ・インク及び申立人の提供する商品及び役務を示す商
標として著名である。よって、「CITI」及び「citi」のマークの商標等について、
申立人が権利または正当な利益を有することは明らかである。そして、本件ド
メイン名と申立人が権利または正当な利益を有する商標とは、類似である。
(2)登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有してい
ないこと
 申立人において、登録者がCITIの商標を使用することを許可したことはなく、
登録者においても、その商号を「CITI株式会社」から株式会社YAYA-Wo
rldに変更しており、商標「Citi」 を将来の取引に使用しないことに合意し
ている。登録者は本件ドメイン名について何ら権利または正当な利益を有しな
い。
(3)登録者の当該ドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているこ
と
 登録者は、申立人との間で、その称号を、CITIを含まないものに変更し、将
来の取引に使用しないことに合意をしている。また申立人において、本件ドメ
イン名の移転登録の要求及びそれに伴う実費負担の申し出も受けている。にも
かかわらず、本件ドメイン名の登録を保有し続ける事には合理的理由は見当た
らない。よって、登録者の目的は、CITIの商標権者ないしその使用許諾を得た
子会社たる申立人に対し、本件ドメイン名の譲渡を提案し、利得を得ようとの
意図に基づくものであり、不正の目的であるといえる。
 また、現在の登録者ホームページの外観は、その中央部分には「CITI株式会
社」と記載されているほか、右下にも「Copyright (c) CITI株式会社」との表
記が残されている。これらは、申立人の「CITI」の商標に関する権利を侵害し、
または本件合意に違反する、違法な表記である。
 以上から、登録者は、シティグループ・インク又は申立人(又はシティグルー
プ・インク若しくは申立人の競合会社)に、登録の必要経費以上の対価をもって
販売する目的又は他の不当な目的で本件ドメイン名の登録を維持するものであ
り、本件ドメイン名は、不正の目的で登録または使用されているものである。
 従って、申立人は、ドメイン名登録の申立人への移転を請求する。
 b 登録者
  登録者の答弁書による主張の概略は以下の通りである。
(1)登録者のドメイン名が、申立人が権利または正当な利益を有する商標
その他表示と同一または混同を引き起こすほど類似してはいないこと
 申立人およびその親会社のシティグループ・インクは中核業務として金融業、
銀行業務の提供をするものである。
 シティグループが知られているのは企業向け金融事業者であり、同グループ
を構成する各会社のドメイン名は(citifinancial.co.jp他)、いずれも「CITI」
のほかに各事業領域などの属性を示す要素から成り立っている。
 これに対し、登録者の行う事業は、中国語圏の個人を対象とした我が国に関
する情報の提供及び予約代行等の目的地サービスである。
 以上から登録者の事業領域とシティグループとの間にはまったく重なるとこ
ろがなく、しかもドメイン名の構成要素ないし構造にはかなりの違いであり、
想起する企業像や提供商品・役務のイメージは相当に異なるから、混同を引き
起こすほど類似してはいない。
 なお、「CITI」の名をシティグループの商標として認識しているのは、その利
用者層である一部企業関係者などに過ぎす、「世界的に周知の事実」ではない。
(2)登録者が当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有している
こと
 登録者はCITI株式会社の商号で、平成25年10月1日に会社を設立し、登
記している。従って、登録者は本件ドメイン登録時には、権利または正当な利
益を有していた。また、申立人から平成27年9月に警告を受ける前から、本
件ドメインを使用してホームページを運営していたことから、正当な利益を有
していたことは明白である。
 また、登録者は観光情報の提供であるところ、これは申立人の挙げるいずれ
いずれの商標の役務および商品の区分にも含まれないうえ、登録者は、設立当
初より、「CITI」ではなく、「YAYA-World」の名称を表示してすべての役務また
は商品を提供している。したがって、登録者が上記商号を用いることにより、
申立人の商標権を侵害する余地はないし、不正競争防止法に抵触する余地もな
い。
(3)登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されていないこと
 CITI株式会社の商号に対応しドメイン名として、本件ドメインを取得してい
ることから、申立人が本件ドメイン名を使用できないように妨害する意図はな
いし、競業者の事業を混乱させることを主たる目的とするものでもないく、そ
の他不正な目的で登録または使用されているとはいえない。
 登録者は、本件申立前に申立人よりなされた10万円限度の支払いの申出を
受け入れていないが、これは申立人からは、ドメイン名の変更だけではなく、
併せて社名変更なども求められ、その実施に伴い、印刷物や看板の改訂なども
必要となった結果、それらに要する費用を合わせると50万(会社看板の更新に
つき10万円、ウエブサイトの更新デザインおよび制作につき10万円、名刺
の更新および印鑑の更新につき10万円、加盟店に社名更新のお詫びおよび説
明につき20万円)以上はかかることになり、合計すると登録料相当の10万円
程度では到底足りなくなったためである。
 また、登録者は、その役務の提供にあたって、もっぱら「YAYA-World」の名
称を使用している。

5 争点および事実認定
 規則第15条(a)は、パネルが紛争を裁定する際に使用することになって
いる原則についてパネルに次のように指示する。「パネルは、提出された陳述・
文書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係法
規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならない。」
 方針第4条aは、申立人が次の事項の各々を証明しなければならないことを
指図している。
 (1)登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標そ
の他表示と同一又は混同を引き起こすほど類似していること
 (2)登録者が、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有していない
こと
 (3)登録者のドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されていること

 (1)同一又は混同を引き起こすほどの類似性
 JPドメイン名紛争処理方針第4条a(i)は、文理上、登録者の営む事業の指定
商品・役務と、申立人のそれを考慮し比較するのではなく、単にドメイン名と、
申立人の権利または正当な利益を有する商標との比較を要求していると解され
る。例えばドメイン取引目的を持つ者が、指定商品・役務の異なる他事業者の
有する商標につき、ドメイン登録を得ようとする場合に、前者の解釈であれば
指定商品・役務が異なるから商標的に非類似であり、ドメイン登録を存続する
ことになるが、商標権者はドメインに商標を使用できないことになり、不当な
結論になる。
 なお、登録者は、自己の行う事業が中国語圏の個人を対象とした我が国に関
する情報の提供及び予約代行等の目的地サービスであり、登録者の事業領域と
シティグループとの間にはまったく重なるところがない旨主張する。
 ところで、登録者の履歴事項全部証明書の目的欄の10に「新車、中古自動
車等の車両の販売、レンタル、リース並び輸出入業」と記載されている。他方
申立人のシティバンク銀行株式会社平成27年中間期デスクロ―ジャー誌の6
頁の当行の経営戦略の項では、コーポレートファイナンス、不動産ファイナン
スの言葉が使用されている。ここで、登録者はリースが目的となっているがファ
イナンシャルリースは一般的であり、両者の事業は重なる部分があるのであり、
登録者の主張に誤りがある。
 よって、ドメイン名と申立人の親会社の持つ商標権を比較して決すべきであ
る。
 本件では、申立人の親会社の持つ商標権、商標登録第5259973号は、
CITIとなっている。本件ドメイン名は、「CITI.CO.JP」であるが、「co.jp」は、
日本にある企業によって使用される属性型JPドメイン名において共通して用
いられるものであり、何らの識別力を有しない部分であり、本件ドメイン名の
要部はCITIである。よって、本件各商標と本件ドメイン名は、混同を引き起こ
すほど類似といえる。
 (2)権利又は正当な利益
 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利または正当な利益を有していない
ことは明らかである。すなわち、登録者は、登録時に権利または正当な利益を
有していたことを主張している。しかしながら、現時点で権利または正当な利
益を有していなければないと解される。処理方針第2条がドメインの登録申請
に際し、またはその維持・更新にあたり、としていることによる。
 登録者はその商号を平成28年1月に「CITI株式会社」から株式会社YAY
A-Worldに変更しており、商標「Citi」 を将来の取引に使用せず、異な
る商標をそのビジネスについて使用することを合意している。また登録者の
ホームページは現在まで維持されているが、そのサイト上の機能は一切失われ、
いわばフリーズした状態である。
 更に商標登録第4638700号商標「citi」の文字からなるロゴは平成1
5年1月24日に登録になっており、商標登録第5259973号商標「CITI」
は、登録日は平成21年10月6日である。登録者の「CITI株式会社」の設立
は平成25年10月1日である。登録者は申立人の親会社の商標を知悉して申
立人の親会社のドメイン名が未登録なのを奇禍として登録を行ったと推測され
る。又商標が、地名に用いられる「city」ではなく、造語である「cit
i」であり、このような事情も登録者の正当な利益を減殺させる事情である。
 更に登録者は、設立当初より、「CITI」ではなく、「YAYA-World」の名称を表
示してすべての役務または商品を提供していると主張しているが、
「YAYA-World」の表示は、各証拠によれば商号変更後に役務を提供しており、
主張に沿った証拠はない。
 以上より、登録者は、ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい
ると認定することは出来ない。 
 (3)不正の目的での登録又は使用
 不正の目的で使用していることの証明については、その事実の存否を認定す
るに際し、JPドメイン紛争処理方針第4条b(i)において、登録者が、申立人
又は申立人の競業者に対して、当該ドメイン名に直接かかった金額(書面で確
認できる金額)を超える対価を得るために、当該ドメイン名を販売、貸与また
は移転することを主たる目的として、当該ドメイン名を登録または取得してい
るときには、不正の目的があると認定すべきものとされている。本件は、当該
ドメイン名に直接かかった金額を超える対価を登録者が要求していることにつ
いては、答弁書において、ドメイン名の変更だけでなく併せて社名変更なども
求められ、その実施に伴い、印刷物や看板の改訂なども必要となった結果、そ
れらに要する費用を併せて50万以上はかかり、10万円では足りない旨主張
されていること、申立人の主張においても、10万円を提示したとの事実があ
り、その後、登録者からのドメイン名の移転作業に対する回答がないまま、登
録者から、「今回商号変更を伴い、銀行の登録、年金の登録、印鑑、名刺、事
務所ビルの看板などまで変更することになりますので、コストも高いし、大変
でございます。」とのメールを受信した事実がある。これは、金銭支払の要求を
しなければ移転をしないとの示唆をしているといえる。従って、少なくとも当該
ドメインに直接かかった金額を超える対価を得ようとしていると認定すること
ができる。即ち、本来「CITI」に係る費用は、早晩無駄になる費用であり、自
己負担すべき費用である。ところで、「YAYA-World」に変更したことによる費用
は、最初からその名称でスタートすれば、当然に負担すべき費用である。即ち
会社看板の更新や、ウエブサイトの更新デザイン及び制作、名刺の更新および
印鑑の更新、加盟店に社名更新の説明については、最初からその名称でスター
トすれば当然に負担すべき費用であり、申立人に請求すべき費用では無い。
 そして、登録者は、その商号を平成28年1月に「CITI株式会社」から株式
会社YAYA-Worldに変更しており、商標「Citi」 を将来の取引に使用
せず、異なる商標をそのビジネスについて使用することを合意している。また
登録者のホームページは現在まで維持されているが、そのサイト上の機能は一
切失われ、いわばフリーズした状態であることは前述した通りであり、当該ド
メイン名の現在の状態は、ドメイン名の移転を唯一の目的として、使用されて
いる状態である。
 従って当該ドメイン名を登録時にその目的が有るとは認定できないが、現在
の使用時において転売目的が有ると認定することは出来る。即ち、登録者のド
メイン名が、不正の目的で使用されていると認定できる。

6 結論
 以上に照らして、紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン名
「CITI.CO.JP」が申立人の商標と混同を引き起こすほど類似し、登録者が、ド
メイン名について権利又は正当な利益を有していず、登録者のドメイン名が不
正の目的で使用されているものと裁定する。本件では、交渉段階で申立人が登
録者に移転請求をしており、本申立でも同様であるから、方針第4条iに従っ
て、ドメイン名「CITI.CO.JP」の登録を申立人に移転するものとし、主文のと
おり裁定する。

   2017年2月24日

   日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル
              パネリスト名
              単独パネリスト  渡  邊     敏


別記  手続の経緯
(1)申立書受領日
      2016年7月19日(電子メール及び書面)
(2)手数料受領日
      2016年7月22日  申立手数料の受領確認
(3)ドメイン名及び登録者の確認
      2016年7月22日  JPRSへ照会
      2016年7月22日  JPRSから登録情報の回答
       回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、
       JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住所等
(4)適式性
      日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2016年
      7月22日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合している
      ことを確認した。
(5)登録者への通知日及び内容
      1) 申立書送付日(手続開始日) 2016年7月26日(電子メール及
         び郵送)
      2) 申立書及び証拠等一式
      3) 答弁書提出期限  2016年8月24日
(6)手続開始日  2016年7月26日
      センターは、2016年7月26日に申立人及び登録者には電子メール
      及び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。
(7)答弁書の提出の有無及び提出日
      センターは、以下のとおり答弁書提出期限の延長を行った。
1回目 登録者からの上申を受けて2016年9月2日まで延長
2回目 両当事者からの上申を受けて2016年9月30日まで延長
3回目 両当事者からの上申を受けて2016年10月31日まで延長
4回目 両当事者からの上申を受けて2016年11月30日まで延長
5回目 両当事者からの上申を受けて2017年1月10日まで延長
6回目 登録者からの上申を受けて2017年1月31日まで延長
   センターは、2017年1月31日に受領した答弁書について、不備が
  あると判断してその旨を登録者に通知し、2月2日に補正された答弁書を
  受領し、処理方針と規則に照らし答弁書が適合していることを確認し、2
  月3日に電子メール及び郵送で申立人に送付した。
(8)パネリストの選任  2017年2月6日
      申立人、登録者とも1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。
      中立宣言書の受領日:2017年2月20日
      パネリスト:弁護士 渡邊 敏
(9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知
      2017年2月6日  JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知
                          申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で通知
      裁定予定日:2017年2月24日
(10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し
      2017年2月6日(電子メール及び郵送)
(11)パネルによる審理・裁定
      2017年2月24日  審理終了、裁定。